13年ぶりの再開

2001年の2月末、今は母校の顧問をしているH先輩から気になるメールが届きました。

…ところで、最近すごいものを手に入れました。ちょっと驚くと思います。ぜひ見に来てください。

少々天然はいったH先輩の「すごいもの」だからねぇ〜と思いながら、それでもいそいそと母校へ遊びに行ってみると、先輩、なんやら見慣れない、ちょっとよさげなセミハードケースをえっちらいそいそと担いできました。どうやら楽器を新調したってことらしい。なんだ、そりゃ先輩にとっちゃめでたいしすごいことだろうけど、もう何年も前からF管が欲しい欲しいってのたまってたんだし、別にそんなに驚くようなことじゃ…、ん、なにこれB管じゃないか! おや、この管の曲げ、どこかで見たような…

あ、あぁ〜〜〜〜! これってまさか、銀チューバ…

ズバリそのまさかだったのです。クリアラッカー仕上げのためにぱっと見ピンと来ませんでしたが(このへんが情けないところ。着てる服に思いっきりだまされるタイプ)、細部まであの銀チューバそのまま。第4バルブもちゃんとついてるし、それに(当然だけど)へこみが全然ない!

ハンブルグ在住のアマチュアトロンボーン奏者が半分趣味でやっているらしい商売であること、インターネットで注文できる(しかもtuba.comと、よくぞ取ったりというドメイン)こと、びっくりするくらい安かったこと、自分が買ったときはもう残りはわずかしかなかったこと、そして追加の入荷予定はないことなどなど、H氏は目を丸くして固まってしまっているわたしに得意げにあれこれ説明してくれていた…んだろうと思うんですが、なにしろこっちは茫然自失、そんなこと半分も聞いちゃいません。これもはもう、今すぐ帰って注文しなくちゃ(なんだうるさいな、まだ終わんないのかなこの人の話ってば)。

かすかに震える手で持たせてもらうと、いくぶん肉厚に作られているのかオリジナル?よりは重いものの、構えやすさはまさにそのまま。ベルをしぼったローラーの目が表側にもはっきり出ているところがなんとも手作りっぽくていい感じです。吹いてみるとこれがまた野暮ったいというかクロコダイルダンディー風というか、決して整ってはいないけれどいっぽん筋の通った音、そして、なんてったって忘れがたいこの吹奏感! 欲しい、欲しい、どうしても!

家に帰ってすぐにアクセスしてみると、少なくとまだ売り切れではないらしい。値段も確認せずに乞うような調子でメールを書きました。「まだぼくのチューバ残ってる?」って。翌日仕事場で受けたメールには、残りあと2本だったと書かれていました。ふぇぇ、間に合った…。即座に注文メールを返しました。カスタムメイドのケース(スペイン製)付きで4700ドイツマルク。日本で消費税を払って30万円そこそこです。チューバ吹きなら、これがどれほど安いかおわかりでしょう。ロシアで仕入れたものを、ドイツでロータリーの研磨調整とレバー部の交換を施しているので、仕入れたものをそのまま送るだけでよければ10万円ほどだとか。

楽器製造も自動化がだいぶ進んではいますが、手作業に頼っている部分もまだまだ多く、たとえ同一品番の中でも個体差の存在を無視できません。信頼できる大手メーカーの製品であっても、購入にあたっては試奏を十分にするのが常識で、通販は一種の賭けになります。ましてや相手は(整備加工はプロの工房でやっているとはいえ)モグリとまではいかずとも専門の販売店とは言いがたく、しかも海外とあってはトラブル発生時のクレーム対応は期待薄です。いくら安いといってもこんなの注文するのは、普通に考えれば無謀もいいところでしょう。

しかし、ものがいいことは(他ならぬわたし自身の)折り紙つきというわけで、極端な話こいつのことは世界で俺がいちばんよくわかってるくらいの気持ち、あとはもうお家(俺んとこ)に帰してやりたい一心です。まるっきり大ハズレをつかんでしまった時のことも一応考えてみましたが、それならそれで音楽愛好のあかし、愚かしくも熱心だった高校時代の部活の思い出としてインテリアにでもすればいい(置き場所もないくせによく言うよ)。ためらう理由はもはやありません。第一もう注文しちゃった後だしね。(^^ゞ

それこそ一日千秋の思いで待つことおよそ2週間、通関業者から貨物到着の連絡が入りました。仕事の忙しい時期でしたがなんとか時間をやりくりして引き取り(個人通関)手続きをする運びとあいなった忘れもしない3月13日、Mission Impossible の幕が上がることになるのです…。


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