ヒカルと加奈子はそれぞれ第4話、第7話で「全国中学軟式野球大会」で名選手として活躍していたことが明らかになっています。一方ユキは第22話で「関東中学女子軟式野球大会」で最優秀選手に選ばれたとはっきりそう言われています。関東リーグには「女子」が入っていて、全国リーグはそうではないので「中学軟式」すなわち女子リーグとは考えにくく、男子が多数を占めてはいるが、女子選手の参加「も」認めている大会と考える方が自然ではないでしょうか。
女子選手のみで構成された軟式野球チームはソフトボールのそれに比べかなりその数は少ないでしょう。女子大会を行うのであれば関東と全国にブロックを分ける意味はあまりないはずです。「女子軟式」は男子が多い「中学軟式」に比べて参加校数も少ないために盛り上がりに欠けており、全国大会が開催されるには至っていないのでしょう。野球能力の並外れ方では如月ナイン中随一のユキが「関東大会どまり」だったのは、あの不幸な事件(第22話)が原因ではなく彼女がたまたま女子チームに所属していたためであって、もし男子に交じってユキが全国リーグに出場していれば、ヒカルの最優秀選手の座を脅かす存在になったであろうことは想像に難くありません。
また「中学軟式」が女子リーグであったとすれば、それほど盛んな女子野球界からはもっと多くの選手が野球特待生としてスカウトされていて当然のはずです。聖良や小春のように特殊な事情でもない限り、硬式への転向という荒唐無稽な条件つきとはいえ名門のほまれ高い(はずの)如月女子高校からの特待生入学の誘いを無下に断る選手がそう多いとは考えられません。女子リーグには男子に伍して硬式野球で活躍できるほどレベルの高い選手はユキ以外にほとんど見当たらず、ヒカルが男まさりの活躍を見せた「中学軟式」には女子選手はもともとほんの数人しか出場していなかった…そう考えれば、野球特待生が涼を含めて3名だけであった(加奈子にすら声がかかっていない!)ことの説明がつきます。氷室理事長は特待生について数人の心当たりがあるような口ぶりでしたが(第2話)、ヒカル・ユキの残りは聖良と小春だけ(加奈子は事情を考慮して断念した?)だったのでしょう。そのくらいの高レベル?を想定しなければ「けたはずれに高い運動能力を持った選手たちからなる、異能の女子野球チーム」という重要かつ魅力的な設定がうまく活かせません。結局のところ、特待生の取り逃がしはなかったのです。
以上から、ヒカルを「全国女子軟式リーグで最優秀選手」と言ったスポーツ新聞記者(第10話)は、日頃目にする機会のほとんどない中学軟式野球の実情を知らないために勘違いをしたのだと推測されます。(^^ゞ
…そもそもこの記者さん方、いずみのことを「確かに補欠として登録されている」 なんて言っていますが、いったいどの団体に「登録」されていたのやら。え、野球部?*英語版でもこの部分は ... the coach regist her as a bench warmer, when did he do that?
としていますが、英語のニュアンスではただ部員名簿に載せているというだけの意味で、日本でいうところの「選手登録」とはわけが違います。一練習試合のオーダーがなぜ事前にスポーツ新聞社の資料に入っていたのかは、もう謎としか言いようがありません。それこそ「いつの間に!?」です。桂子がプレスリリースを流していたのなら、いずみが突然あらわれても桂子は驚きを押し隠すような表情をする必要もないでしょう。
さて、宏樹が涼にプレゼントした金メダル(第19話)は、「第51回全国中学校野球大会」地区大会優勝の副賞です。中学時代の宏樹の試合シーン(第20話)には同大会のバナーがこの通りに出ていましたから、この「全国中学校野球大会」というのは正式名称なのでしょう。会話では、正式名称をはしょって言うことはあってもさらに言葉をつけ足して言うことはまず考えられませんから、この大会と涼やヒカルが言っていた「全国中学軟式野球大会」とは別物だと考えたほうがよさそうです。
プロ野球ならともかく、まったく同じルールで運営される全国リーグが複数存在するのは非合理的なので「全国中学校」のほうは硬式野球だということになります。現存する中学生対象の硬式野球チームはほとんどがクラブチームであり、中学校で専門の硬式野球部を有するところはないか非常に少ないはずなので「全国中学校」は軟式野球の有力校がこの大会のために特別に硬式チームを編成して出場するいわばお祭りリーグであると考えられます(そのようなリーグの存在意義については疑問がありますが、ここでは無視します)。第10話で如月女子と対戦した明応中学は硬式に慣れていたようですが、関東大会優勝クラスの強豪ですから「全国中学校」には当然出場しているでしょう。筋は通っています。
しかし、そうすると宏樹が所属していた如月中学野球部は「中学軟式」にも出場できるはずですし、していると考えるべきでしょう。では、ヒカルは超高校級スラッガーで高校進学前から話題になっていた宏樹をさしおいて最優秀選手に選ばれたのでしょうか。それに、如月中学は「中学軟式」ではどの程度の成績を収めていたのでしょう。
逆に、やや不自然ですが「全国中学校」という硬式リーグが常設されていたとすれば、ルールは高校野球協会のそれを踏襲して、女子の参加を認めないことを明文でうたっている可能性が高いと思われます。つまり、
のように整理されます。少子化の昨今、男子野球部と女子野球部の両方をもっている中学校というものが存在する可能性は極めて低いでしょう。「関東中学女子」は、基本的には女子校の軟式野球部を想定しているものと考えられます。
ならば、如月女子中は女子チームながら「中学軟式」に出場していたのでしょうか。大会開催時期が違えば両方に参加することでしょうし、同じ時期であれば女子リーグを選択しない理由はあまりありません。如月女子は女子リーグでは常勝チームで、「全国中学軟式」にランクを上げているのでしょうか。如月女子が関東女子リーグに出場していたとすれば(如月学園は東京にあります)、最優秀選手賞を獲得するほど攻守に大活躍のユキのことを加奈子が知らないはずはありません。第22話のどこかで「わたしが知ってる中学時代のユキは、もっと楽しそうに野球をしていたわ」くらいのことは言いそうなものです。